2008年08月17日

アメリカの窓から地域に窓へ、変わる世界のメディアと衛星放送新時代

 隅井孝雄 京都ノートルダム女子大学客員教授

 以下は「女性の広場」2008年5月号に掲載された
 
 中東は衛星放送の十字路
 昨年私は中東経由してエジプトを訪れました。日本ではテレビといえば誰でも地上波テレビを思い浮かべますが、中東では人々は競って衛星放送を見ます。私が訪れたドバイでも、カイロでも建物の屋上は衛星用のお椀形をしたパラボラアンテナが林立しています。私が食事に呼ばれたある家庭では300チャンネル入っていました。見ようと思えば1000チャンネル可能だといいます。中東で最も人気のある衛星番組はアラブスターという歌のコンテスト番組ですが、そのほかアラブ語のコメディ、アラブ版音楽チャンネルなど多種多彩です。 
 見ようと思えばCNN、BBCなどアメリカなど西欧系の衛星チャンネルも見られますが、最近では中国国営テレビ、フランステレビ、ドイツテレビなどの24時間英語ニュースも見られるし、韓国が放送している国際衛星チャンネルアリランテレビ、日本のNHKワールドの放送もあります。
 そして中東ではイラク戦争で大活躍したカタールの24時間ニュース局アルジャジーラが重要なニュース源になっています。フセイン時代衛星放送を見ることが禁止されていたイラクでも、今では衛星アンテナが飛ぶように売れ、人々は衛星からニュースや娯楽番組を受信しているのです。
 テレビ放送用の衛星は技術上の理由から赤道上空36,000kmの軌道に密集しています。中東はまさに衛星の十字路であるため、受信可能なチャンネルが最も多いものと思われます。しかし、21世紀に入ってから多くの国が世界へのニュース送信にしのぎを削るようになり、衛星放送新時代の様相を示しています。

 湾岸戦争がきっかけ、国際放送に変化起きる
 テレビの国際衛星放送はニュースの分野ではアメリカCNNの独占が長く続いていました。1980年、はじめて衛星による24時間ニュース放送をアメリカで開始したCNNは、1984年には世界各地での放送を始めています。そのCNNが世界を震撼させたのは1991年の湾岸戦争でした。
 湾岸戦争開戦時、アメリカ政府の退去勧告を無視してバグダッドに残ったバーナード・ショー、ピーター・アーネットの二人の記者は米軍機の最初の空爆の模様をリアルタイムでレポートする一方、被害にあった市民の様子も取材、当時の最新取材機器であった雨傘のような移動型衛星送信機材を駆使してニュース映像を世界に伝えたのです。
 湾岸戦争ではアメリカ、イギリスの多国籍軍は取材を厳重にコントロールしました。世界のテレビ局はサウジアラビア、リアドの司令部で軍が記者発表するピンポイント攻撃のコンピューター映像を流すほかありませんでした。その中にあってCNNのバクダッドからの中継は衝撃を与えました。CNNのピーター・アーネット記者は敵国の宣伝に加担したとしてアメリカ国内で激しく攻撃されたという後日談があります。
 湾岸戦争のあとイギリスBBCはCNNに遅れをとったことを反省し、1994年テレビニュースを世界に発信するため24時間衛星チャンネルBBCワールドを発足させました。また1996年には中東圏での初の衛星ニュースチャンネル「アルジャジーラ」(本拠地カタール)が生まれました。

 イラク戦争で活躍したBBCとアルジャジーラ
 2003年のイラク戦争では、アメリカが800人に上る記者の従軍取材を戦場にうけいれました。記者たちはバグダットに向けて進撃する軍隊と一体になり、Foxニュースなど多くのアメリカの報道機関は戦争賛美の愛国報道に走る、という結果をもたらしました。しかし戦争の当事国であるイギリスBBCは「イギリス軍をわが軍とは呼ばない」、「軍や政府の情報は信頼性をチェックする」などのルールを定めて出来るだけ客観的に報道することを心がけ、国際的な評価を大いに高めました。従軍取材から離れて最前線でカメラを回して、アメリカ空軍機の誤爆にさらされた取材クルーもいました。激戦の中砲弾を兵士に手渡したことをレポートして、軍と一体化した報道を自ら戒めた記者もいました。イラク国内で捕虜となったジェシカ・リンチ上等兵の救出作戦という美談が米軍の演出だったことを暴いたのはBBCでした。
 イラク戦争中アメリカ政府をもっともいらだたせたのは中東のニュース局アルジャジーラでした。米軍がバグダッド市内で軍事目標を正確に攻撃していると発表しているとき、アルジャジーラは砲弾に逃げ惑い、怪我をするイラク市民の映像を世界に流し続けました。
 ウサマ・ビン・ラディンの声明ビデオが持ち込まれ、それを報道したことについてアメリカ政府は、アルジャジーラはテロリストの報道だと非難を繰り返しました。アルジャジーラのバグダッド支局は砲撃を受けて記者が死亡するという悲劇も起きたが、アラブの声を世界に伝えるニュース報道は途切れることはありませんでした。
 常にアメリカの視点が優先していた世界のニュース報道は、イラク戦争を契機に大きく変化したといえるでしょう。

 ドイツ、フランス、中国、韓国、ラテンアメリカ・・・・
 イラク戦争開戦に当たってアメリカと対立したドイツでは、以前から英語やアラブ語での国際ニュース放送トイチェベレを放送しています。同じように開戦に反対したフランスでは、シラク大統領(当時)がアメリカに対抗してフランスに声を世界に届ける必要があると痛感、2006年になって英語による衛星ニュース放送フランス24が放送を始めるにいたりました。(新しいサルコジ新大統領は経費削減を理由に英語放送を打ち切り、フランス語だけにしようと提案し、ジャーナリストたちの反発を受けてていますが・・・。)
 中国も海外発信に熱心です。2000には英語による24時間ニュースCCTV9(CCTVは中国中央テレビの略です)の放送を開始しています。CCTVによれば視聴者は全世界で3500万世帯あるということです。中国の経済発展に世界が注目していることもあり、一日六回放送される経済情報ニュースBiz ChinaはCCTV9の目玉番組になっています。
 注目されるのは韓国の動きです。英語で24時間国際放送しているアリランTVは、2004年からアラビア語放送も始めました。きっかけは韓国がイラク戦争に軍隊を派遣したことでした。折から韓国人がイラクで人質になり殺害されるという悲劇がおきました。韓国軍の平和維持活動、復興支援を伝えるニュースで韓国に対する理解を広げようと、韓国政府も4億円の放送資金を援助しています。韓国公共放送によるKBSワールドもあり、中東でアラブ語の「冬のソナタ」が流れたときは大きな反響が寄せられたそうです。
 南米でも2005年新しい衛星局テレスールが生まれました。CNNに対抗して中南米(ラテンアメリカ)の声を世界に届けることが目的です。本社はカラカスにありますが、ベネゼラ、アルゼンチン、キューバ、ウルグアイ、ボリビア、いずれも左派政権の五カ国出資です。

 遅れをとった日本、政府主導の国際放送? 
 国際的なテレビ放送の新しい展開のなかにあって、日本は大きく遅れをとっています。ニュースを主体にするNHKワールド(無料)、ドラマや娯楽番組などNHKの再放送を主体とする「ワールドプレミア」(有料放送)がありますが、英語番組の数が少なく、海外に住んでいる日本人、ホテルに滞在する日本人旅行者向けの域を脱してはいません。
 2006年小泉総理大臣(当時)は「日本がどういう国か世界に伝えることは重要だ」と国際放送の強化を打ち出しました。審議会が開催され、NHKが新しい国際放送の仕組みを考えることになりました。現在検討が行われていますが政府主導の国際放送が世界の人々に受け入れられるかどうか疑問です。まして、小泉内閣とそれを引き継いだ安倍内閣は、NHKの国際放送に対して「拉致問題を重点的に取り上げなさい」という命令放送を発動し、問題となったことは記憶に新しいところです。国の政策を宣伝するという手法はあまりにも時代遅れではないでしょうか。
 イギリスのBBCが目指しているように、政府からは独立し、公正で客観的で、国際社会の一員として尊重されるニュース報道を行うための、あるいは日本の現代文化、現代社会への理解を広げていくような国際放送の仕組みをどう作り上げていくか、NHK任せではなく国民全体が議論に参加することが重要だと私は思います。
posted by sumiitakao at 13:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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