2009年02月26日

非営利市民放送とマスメディアを考える その四

 非営利市民放送とマスメディアを考える その四 隅井孝雄

 以下の論文は2008年9月に発刊された「非営利放送とは何か、市民が創るメディア」に掲載された私のロングンである。5回に分けて掲載する。今回はその四

 第四節 されどメディアはゆく

 メディア新時代と情報通信法
 21世紀に入って、メディアの世界は大きく変化している。デジタル化が急速に進み、インターネットの威力が増大しているからだ。2008年の広告費で見ても、インターネットに投下される広告費は6000億円に達した。雑誌とラジオの広告費合計6200億円にほぼ肩を並べる。
 活字系のメディアではインターネット上のブログ、検索メディアが台頭、新聞自体もインターネット上の情報提供に積極的に乗り出している。その結果アサヒコム、毎日JPなど大手新聞系のニュースサイトは常にアクセス数で上位にある。
 テレビでは1996年初頭のCSデジタル開始で48になったチャンネルは2007年454チャンネルを数える。ワンセグによるケイタイ送信は2008年春以降、新たな独立利用チャンネルの増加が見込まれ、BSデジタル放送もまたビッグカメラ系の「日本ビーエス」、伊藤忠系の映画チャンネル「スターテレビ」、三井物産系の「ワールドハイビジョン」など新しい放送事業者に開放された。多チャンネル時代はさらに広がりを見せている。
 ブロードバンドの普及が2007年に50%をこえたこと、YouTubeのような動画サイトの人気が急上昇していることなどから、インターネット経由で映画、テレビ番組、テレビニュースに接する動画視聴も増大の一途をたどっている。
 ラジオもまた現在のAM、FM、短波に加えて新しいデジタルラジオが開始される見込みだ。2011年以降は全国9、地域11のデジタルラジオチャンネルが想定されている。
 こうした中で政府は地上放送、衛星放送、電話とブロードバンド回線、インターネットなど全面デジタル化しつつあるメディアを一体化してコントロールする新たな「情報通信法」を準備している。今までのように放送と通信というように縦に分けて考えるのではなく、情報内容(コンテンツ)、情報伝達手段(プラットフォーム)、通信網や放送網の設備(インフラ)の三層に横断的に分け国の管理に組み入れる考え方だ。
 放送だけではなくインターネット経由であっても、多くの人々に視聴されるものは、影響力が大きいとして政治的な公平、正確な報道など規制の対象にすることが考えられていることから議論を呼んでいる。またホームページなど誰でも発信できるインターネットやケイタイではポルノ映像、有害情報の規制も強化される模様だ。
 こうした制度変更は「情報通信審議会」の論議を経て、2010年に具体化されようとしている。民間放送連盟や経団連では「影響力の大きさ」というあいまいな根拠で内容規制を行うことに反対、新しく増えつつあるメディアは規制を緩和して自由度を高めるべきだとしている。特にインターネットに現在の地上波と同様な内容規制がかけられることについての反対意見は強い。
 こうした動きに先立って政府は2007年10月に現在の放送法を改正した。それによると以下のようなことが新たに決まった。
 NHKに監査委員会を新設し、経営を監視、監督する体制を強化する、新しく外国人向けの国際テレビ放送をNHKが始める。その番組制作は新しく作られる法人に委託する。NHKのアーカイブに保存している番組をブロードバンドで有料提供することを認める。民間放送の経営効率化を図り、資金調達を容易にする目的で複数の地上放送局(12局まで)を子会社に出来るよう「放送持ち株会社制度」を作る、などである。
 NHKと民放はこの改正でますますメディアの中での独占的地位を高めていくことになるだろう。特に民放では地方局が東京、大阪のキー局の傘下に組み込まれることになり、民放の特質であった地域性は影の薄いものとならざるを得ない。

 ネット社会の中のアメリカメディア
アメリカの脚本家組合が敢行したストライキは2007年11月から2月までの3ヶ月間にわたって続いた。コメディショー、視聴者参加のタレントショー、プライムタイムの人気ドラマなど70以上の番組が中止され、新作映画の制作もストップした。ハリウッドとテレビ局が受けた経済損失は実に30億ドル(およそ3200億円)に達する。紛争の焦点はインターネット、ケイタイ、iPodなどでのストリーミング配信やダウンロードの二次使用料の配分だったが、結果脚本家側は収益の2%を手にすることになった。
 アメリカでは 2009年のテレビ放送全面デジタル化を目前にしている。現在すでに多くのテレビ番組がほぼストリーミング形式でインターネットに流れ、iPodに流れている。アメリカのテレビ局はYouTubeへの映像提供も積極的に行っている。主要なテレビニュースはインターネット上でさらに情報を付加したものを見ることが出来る。アメリカのメディアはインターネットを新しいアウトレットとし、新しい広告収入、視聴者獲得の手段として積極的に打って出ているのだ。
 アメリカテレビ界のトップアンカーといわれたダン・ラザー(CBS)が2005年3月辞任した。その前年ブッシュ大統領の軍籍に関する報道で証拠にした文書が虚偽であるとブロガーに指摘されて謝罪したことが命取りになった。
 2005年1月世界経済フォーラムの席上CNNのイーサン・ジョーダン報道局長はアメリカ軍がイラクでジャーナリストを標的にした可能性について述べた。これがブロガーの集中砲火を浴び、彼もまた辞任に追いやられた。
 この二つの事件は、ブログが既存大メディアをも追い落とす存在になった実例として繰り返し語られている。
2008年の大統領選でもブログやYouTube効用が繰り返し語られている。しかし全国的に候補者や政策を訴えるのはやはりテレビコマーシャルがもっとも有効だといわれている。2月3日のスーパーチュースデイを中心にして15万本、金額にして1億7千万ドル(およそ185億円)のCMが流れたとアメリカのテレビ局ABCは推定している。
 2008年3月4日のテキサスとオハイオでの予備選を前にして、クリントン陣営は「午前3時の電話」というコマーシャルを流した。子供たちが寝ている早朝ホワイトハウスに電話がかかってくる。それに応えるホワイトハウスの主が誰かと問いかけ、安全保障の重要性を訴えたものである。劣勢を伝えられていたヒラリー・クリントンが大票田のテキサスなどで勝利して踏みとどまったのはまさにこのCMの訴求効果によるとアメリカのメディアは一斉に論評した。
 新聞もウエッブ進出で生き残りを図っている。アメリカのウエッブ上のニュースサイトのビジター数ではニューヨークタイムスが3500万を超えダントツである。CNN、MSNBC、ABCなどがそれに続く。Yahooやグーグルのニュースサイトも人気はあるが、独自の取材があるのではなくソースは既存の新聞、テレビに他ならない。数少ない有料電子版を持つウォールストリートジャーナルは100万人の契約者がいる。新聞全体では読者の減少がみられるものの、有力紙はインターネットに進出し、新しい読者を開拓している。

 日本のメディアの衰えぬ力
 日本では新聞、放送はじめとするマスメディアは依然として産業として強固な基盤を持ち、社会的な影響力も強い。新聞の発行部数6900万部、1000人あたりの普及631部、購読世帯5000万世帯、宅配率99%(いずれも2007年)という普及データーは世界に類例のないほどの高さである。部数は2000年に比べ200万部(朝刊、夕刊あわせ)減少したものの、宅配率は上昇し94パーセントを超えている。ちなみにアメリカの人口1000人あたりの部数は295、総発行部数は5800万部である。(資料は日本新聞協会)
 日本の場合の放送の経済基盤は強固なものがある。NHK受信料収入は年間5960億円(2007年)、ラジオ、テレビ合わせた民放の広告収入は2兆1905億円である(いずれも2007年)。
 NHKと民間放送という放送の二元体制、新聞による民放ネットワークの掌握と再販価格維持制度、宅配制度という仕組みによって新聞産業と民放産業は戦後から半世紀の間に社会的影響力を拡大したのだと私は見る。そしてその力はインターネット時代、デジタル時代の現在も衰えてはいない。
 たとえばテレビの一日の視聴時間はNHKの調査で3時間53分(2007年)である。2000年も3時間53分であり、多少の上下はあるものの、80年代、90年代、2000年代を通してほぼ同じ水準を保っている。インターネットの接触時間は電通の調査によれば2000年8.4分が2007年3.5倍増えたがそれでも30.6分に止まっている。
 この状況について電通は「昨今のネット万能論、テレビ崩壊論はメディア接触データーを冷静に見る限り言い過ぎの感がある」(電通常務松下康氏)としている。
 テレビの視聴者、視聴時間が減らない、社会的影響力も保持し続けている理由の一つに、NHK、民放の番組開発の努力が挙げられる。
 ニュース報道ではNHKの定時ニュースやNHKスペシャルに見られるオーソドックスな客観報道と報道ステーションなど民放に見られるある種の激しさの並立を視聴者は歓迎しているものと見られる。民放の一連のワイドショーの世論効果もさることながら、最近人気のエンタメ型報道番組(たとえば「たけしのTVタックル」、「サンデージャポン」、「太田光の私が総理大臣になったら」など)が従来型の報道番組に代わって世論形成の主役になる傾向もある。報道性、娯楽性に裏情報も加味しているこれらの番組が人々の興味をつなぎとめ、時として小泉劇場、郵政選挙の時のような巨大な社会的波及効果をもたらしてきたといえるだろう。
 市民メディアの一環としてのインターネット新聞も、オーマイニュースやジャンジャンが健闘しているとは言うものの、主流メディアに対抗し、拮抗する存在には育っていない。メディアへの参入を試みたライブドアや楽天は阻まれた。その一方、主流メディア本体は、インターネット進出を試み、着々と地歩を築いている。
 2007年10月、読売、朝日、日経三紙が提携して社説、主要記事読み比べや、新しい共同配信ツールをウエッブに提供する。このサービスについて新聞各社は「ネットメディアにおける新聞社の影響力を高める」(日経杉田亮毅社長)、「インターネットを活用し、ペーパーの新聞を断固維持する」(内山斉読売新聞社長)と意気込んでいる。
 三社のサイトはグーグルと提携しているが、毎日はヤフーや楽天と提携する毎日JP、産経はマイクロソフトと組んだMSN産経ニュースで、それぞれがインターネットを抑えている。
 テレビもまた、フジテレビのCSHD(スカパー経由のHD放送、2008年4月から放送開始)、日本テレビの第2日テレ(会員制の動画サイト、12万人)に見られるように、新しい模索に時代に入っている。

posted by sumiitakao at 00:15| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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Posted by 旅行好きのためのブログ at 2009年02月26日 17:03
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