2009年02月26日

非営利市民放送とマスメディアを考える その五

 非営利市民放送とマスメディアを考える その五 隅井孝雄

 以下の論文は2008年9月に発刊された「非営利放送とは何か、市民が創るメディア」に掲載された私のロングンである。5回に分けて掲載する。今回はその五

 第五節 メディアのこれからを考える

 広域メディアからの転換は可能か
 かつて私が住んでいたアメリカでは、新聞は行政区を単位にして発行されている。ニューヨークタイムス、ボストングローブ、ロサンゼルスタイムスなどの名称を見ただけでそれは明白だ。放送もほぼ市を単位にした置局制度がとられている。車で30-40キロ走るとそこには隣接した市のラジオ、テレビが待ち構えている。さらにラジオは一つのマーケットに20-30局がひしめいているため、パブリックな局、市民アクセス用のラジオも存在する。アメリカ全土に13,748の地上波ラジオ局、1,747の地上波テレビ局が存在している。ラジオ101局、テレビ126局という日本と比べいかに多くの局がアメリカにはあるかがわかる。
 日本のメディア構造を新聞で見れば、全国紙、都道府県単位の地方紙のほか東北、中部、九州など複数県をカバーするブロック紙に大別される。市町村単位の情報は2-4ページの地域版に限定される。NHKも全国放送と都道府県地域放送局の二段構え、民放は全国ネットワークと都道府県単位の地方局、大都市近郊の広域UHF局に分かれる。
 日本の主流メディアには市町村単位の地域情報が視野からほとんど脱落している。そして市民が直接参加し、発言することを容認するメディアも存在していない。受信料で運営されているNHKですら、市民の放送、番組への直接参加に門戸を開いていない。
 2006年6月、受信料不払い急増の中、NHKの再生を探ろうとした「NHKデジタル時代懇談会」は次のような提案を行っている。「単に視聴者の意見を汲み上げる努力だけではなく、視聴者参加のパブリックアクセス番組の開発と提供も積極的に模索されるべきである」。
 しかし残念ながらこの提案は実っていない。(私の知る結いつの例外はKBS京都放送のラジオの場合だ。土曜日朝10分間のアクセス番組があり、年間10回ほど放送されている)。
 デジタルという新しい情報技術を手にしたメディアが、あらためてきめ細かく地域、市民と密着したメディア機能を強化することは可能なはずだ。またデジタル化で単一チャンネルを3チャンネルに分割できることを考えれば、アクセスチャンネルを設定することも難しいことではなくなる。既存メディアが巨大化と商業化の追求という方向を転換し、市民社会に顔を向ける姿勢を持つことが求められる。

 コミュニティーラジオ発展の方向
 京都コミュニティー放送(京都三条ラジオカフェ)のような非営利地域FMは既存のメディアの欠落している機能を担う存在として大きな社会的意義を持つといえるだろう。
 今のところコミュニティー放送は出力が20ワットに限定されているため、メディアとしての訴求力に弱点があるが、大都市以外の市町村にじわじわ広がり始めている。
 2008年4月末の時点でコミュニティーFM局は総数217局、うちNPO局11局である。2004年以降の新規参入は45局を数える。
今後コミュニティーラジオの新しい発展を考える場合、制度的見直しも必要だと思われる。たとえばFM波の置局計画を規制緩和の方向で見直し、出力を増強し、局数を大幅に増やすという行政上の措置も必要になる。デジタル放送波を地域ラジオにも割り当てるといった制度の転換も考えられる。また地域メディアとしての公共性を踏まえ、なんらかの公共的財源を投入する仕組みを作ることも必要ではないだろうか。音楽著作権が緩和され、コミュニティーラジオがインターネット上に広がれば、新メディア時代の新しい可能性も広がる。
 200を超える地域ラジオはそれぞれが日々苦闘しながら放送を続けている。もし条件が整備され、その重要性への認識が広がれば、日本全国の市町村に広がる可能性がある。
 2008年現在全国には1800の市町村がある。このすべてに複数のコミュニティーラジオができるということになれば3000あっても、5000局あってもおかしくない。
 コミュニティーという概念を生活の場ととらえれば、大学、病院などに拡大することも考えられる。アメリカやイギリスでは大学単位、あるいは大きな病床を持つ病院単位のコミュニティーラジオが盛んだ。日本でも大学ラジオ、ホスピタルラジオという新しい展開を考えてもいいのではないか。
 私は地域メディアの重要性を発揮できる可能性は目の前に大きく広がっていると考える。
posted by sumiitakao at 23:01| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

日本における病院ラジオの可能性
Excerpt: ちょっと長くなりますが、先日学会発表した抄録を転記しておきます。 実際の発表の様子は 番組内で放送しました。 それを FM看護系ナイト2のブログページ http://fkn2.seesaa.net/ ..
Weblog: 看護師DJの日記
Tracked: 2009-12-10 19:47
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。