2009年02月27日

21世紀新映像時代

 21世紀新映像時代、隅井孝雄
 これは2008年11月28日、有馬温泉かんぽの宿で開催された近畿民放OB会における講演の一部である。

 インターネット映像社会
 アメリカのYouTube上に、イラクで戦闘に参加する兵士の画像がひんぱんに投稿される。
 そのサイト「ブラックファイブ」には息を殺すような緊迫感が充満している。今そうした戦場映像はアフガニスタンに移った。いずれも既存メディアが撮影しようにも撮影できないものばかりだ。シカゴ警備会社に勤務するマイケル・バーデンは元兵士、湾岸戦争にも参加した。戦場から来る映像を編集しインターネットにアップする。
 アメリカではYouTubeやiPodの登場によって、目を見張るようなメディアとインターネットの融合が起きている。
 たとえばYouTubeの場合画面には様々な市民からの投稿と並んでテレビ番組のクリップ、あるいは番組そのものも並ぶ。NBCテレビなどネットワークもYouTubeと契約し、活用を図っている。クリックする数百万人、数千万人が存在し、番組本体の視聴に誘導することが可能だからだ。日本のテレビ局が著作権侵害だと恐怖感を抱いて毎日必死に削除要求リストを作成し、その数が一月に1000件、2000件に上る、という状況とは大いに異なる。
 今やインターネット上ではアメリカのテレビニュースや番組がふんだんに見られる。アメリカのテレビが5年も前から積極的に打って出ているからだ。ニュース映像ではテレビ局のサイトとYouTubeのサイトは相補っているとみてもよいだろう。
 私の見たところ、アメリカのテレビメディアはインターネットを取り込むことによってメディアの基幹的存在であるいう地位を保とうとしているようだ。
 アメリカのCBSテレビは最近Digというインターネットニュースサイトと提携した。サンフランシスコにあるDigには300万人の利用者がある。インターネット上の投稿ニュースサイトだが、ニュースのランキングをユーザーが決める。ここではニューヨークタイムスも、個人のブログも同じ価値で扱われるのだという。
 速報性のあるニュースがインターネットをにぎわすことがある。ロンドンの連続テロもDigが最も早く報じた。このような仕組みのサイトと提携することによってCBSはニュースソースを市民に求めることが可能になり、より市民の感覚に近寄ったニュース編成ができると考えている。
 CNNは投稿動画のニュースへの取り込みにきわめて熱心である。ミャンマーからいち早く抗議デモの様子が送られてきた。旅行者がハンディービデオカメラで撮影、インターネット経由で送信したのだ。投稿専門のセクションも作られた。イラクの最前線から映像もある。放送の妥当性や正確性にを保つための最大限の努力が繰り返されている。
 ABCの場合、インターネットを活用したニュースサービスの拡大を他局に先駆けていち早く行っている。インターネットのニュース配信サイトABC News Now。一時間ごとの更新で、夕方のテレビニュースより3時間早いダイジェストもある。ABCのニュースサイトにアクセスすれば、すべてのニュースを見ることができる。
 NBCでもガソリンスタンドやタクシー、スポーツジムにもネット経由のニュースを配信しているが、最近はどこのネットワークでも番組の視聴率はこうしたネットアクセスも含めてカウントするようになった。
 BBCがインターネット経由で流し始めているiPlayerも好評で20万人、30万人のアクセスがある。過去のアーカイブ番組だけではなく、見逃した番組が3日後には見ることができる。
 
 メディア新時代と情報通信法
 21世紀に入って、メディアの世界は大きく変化している。デジタル化が急速に進み、インターネットの威力が増大しているからだ。2008年の広告費で見ても、インターネットに投下される広告費は6000億円に達した。雑誌とラジオの広告費合計6200億円にほぼ肩を並べる。
活字系のメディアではインターネット上のブログ、検索メディアが台頭している一方、、新聞自体もインターネット上の情報提供に積極的に乗り出している。その結果アサヒコム、毎日JPなど大手新聞系のニュースサイトは常にアクセス数で上位にある。
 テレビでは1996年初頭のCSデジタル開始時48だったチャンネルは2007年454チャンネルを数える。ワンセグによるケイタイ送信は2008年春以降、新たな独立利用チャンネルの増加が見込まれ、BSデジタル放送もまたビッグカメラ系の「日本ビーエス」、伊藤忠系の映画チャンネル「スターテレビ」、三井物産系の「ワールドハイビジョン」など新しい放送事業者に開放された。多チャンネル時代はさらに広がりを見せている。
ブロードバンドの普及が2007年に50%をこえたこと、YouTubeのような動画サイトの人気が急上昇、音楽配信であったiPod、iTuneもハリウッド映画やテレビドラマを流す。インターネット経由で映画、テレビ番組、テレビニュースに接する動画視聴は増大の一途をたどっている。
 ラジオもまた現在のAM、FM、短波に加えて新しいデジタルラジオが開始される見込みだ。2011年以降は全国9、地域11のデジタルラジオチャンネルが想定されている。
 こうした中で政府は地上放送、衛星放送、電話とブロードバンド回線、インターネットなど全面デジタル化しつつあるメディアを一体化してコントロールする新たな「情報通信法」を準備している。今までのように放送と通信というように縦に分けて考えるのではなく、情報内容(コンテンツ)、情報伝達手段(プラットフォーム)、通信網や放送網の設備(インフラ)の三層に横断的に分け国の管理に組み入れる考え方だ。
 放送だけではなくインターネット経由であっても、多くの人々に視聴されるものは、影響力が大きいとして政治的な公平、正確な報道など規制の対象にすることが考えられていることから議論を呼んでいる。またホームページなど誰でも発信できるインターネットやケイタイではポルノ映像、有害情報の規制も強化される模様だ。
 こうした制度変更は「情報通信審議会」の論議を経て、2010年に具体化されようとしている。民間放送連盟や経団連では「影響力の大きさ」というあいまいな根拠で内容規制を行うことに反対、新しく増えつつあるメディアは規制を緩和して自由度を高めるべきだとしている。特にインターネットに現在の地上波と同様な内容規制がかけられることについての反対意見は強い。またComRightsと名乗る市民メディアグループは情報通信方を白紙に戻し、ヨーロッパなどで制度化されている市民の情報主権を制度化し、市民メディア、地域メディアを推進しようと活発な運動を展開している。
 こうした動きに先立って政府は2007年10月に現在の放送法を改正した。それによると以下のようなことが新たに決まった。
 NHKに監査委員会を新設し、経営を監視、監督する体制を強化する、新しく外国人向けの国際テレビ放送をNHKが始める。その番組制作は新しく作られる法人に委託する。NHKのアーカイブに保存している番組をブロードバンドで有料提供することを認める。民間放送の経営効率化を図り、資金調達を容易にする目的で複数の地上放送局(12局まで)を子会社に出来るよう「放送持ち株会社制度」を作る、などである。
 NHKと民放はこの改正でますますメディアの中での独占的地位を高めていくことになるだろう。特に民放では地方局が東京、大阪のキー局の傘下に組み込まれることになり、民放の特質であった地域性は影の薄いものとならざるを得ない。
 この流れの中で、「国際放送は公益重視で行くべきだ」(古森NHK経営委員長)、「朝から晩まで厚労省を批判している。何か報復でもしてやろうか。例えばスポンサーにならないとかね」(奥田トヨタ自動車元会長、厚生労働行政懇談会座長)など、メディア統制の発言が次々に出ていることは見逃せない。

 ネット社会の中のアメリカメディア
 アメリカの脚本家組合が敢行したストライキは2007年11月から2月までの3ヶ月間にわたって続いた。コメディショー、視聴者参加のタレントショー、プライムタイムの人気ドラマなど70以上の番組が中止され、新作映画の制作もストップした。ハリウッドとテレビ局が受けた経済損失は実に30億ドル(およそ3200億円)に達する。紛争の焦点はインターネット、ケイタイ、iPodなどでのストリーミング配信やダウンロードの二次使用料の配分だったが、結果脚本家側は収益の2%を手にすることになった。
 アメリカでは 2009年のテレビ放送全面デジタル化を目前にしている。現在すでに多くのテレビ番組がほぼストリーミング形式でインターネットに流れ、iPodに流れている。アメリカのテレビ局はYouTubeへの映像提供も積極的に行っている。主要なテレビニュースはインターネット上でさらに情報を付加したものを見ることが出来る。アメリカのメディアはインターネットを新しいアウトレットとし、新しい広告収入、視聴者獲得の手段として積極的に打って出ているのだ。
 アメリカの基幹テレビネットワークがインターネットへの参入、取り込み、提携に極めて熱心であることは前述した。
 アメリカのネットワークテレビニュースは全盛時に比べ視聴者が30%以上減少した。しかしネットワークは依然としてメディアの主流、機関であり、ネット上の視聴と合わせて、支配的な力を行使している。
その一方インターネットによって傷も負っている。
アメリカテレビ界のトップアンカーといわれたダン・ラザー(CBS)が2005年3月ニュース番組の中で自らの過ちを認め「アイム・ソリー」と謝罪し、辞任した。その前年ブッシュ大統領の軍籍に関する報道で証拠にした文書が虚偽であるとブロガーに指摘されたことが命取りになったのだ。
 2005年1月世界経済フォーラムの席上CNNのイーサン・ジョーダン報道局長はアメリカ軍がイラクでジャーナリストを標的にした可能性について述べた。この発言の現場にいたブロガーがその場で発信、全米のブロガーの集中砲火を浴び、彼もまた辞任に追いやられた。
 この二つの事件は、ブログが既存大メディアをも追い落とす存在になった実例として繰り返し語られている。しかしこれを単純に既存メディアと新興インターネットメディアの角逐と見ることは間違っている。私は当時二期目を狙うブッシュ新保守主義勢力のメディア攻撃が激しく展開されており、ブッシュ政権やイラク戦争に疑問を呈するメディアの追い落とし、姿勢転換を迫る動きがつよまっていたことが背景にあると見る。

 新聞もウエッブ進出で生き残りを図っている。アメリカのウエッブ上のニュースサイトのビジター数ではニューヨークタイムスが3500万を超えダントツである。CNN、MSNBC、ABCなどがそれに続く。Yahooやグーグルのニュースサイトも人気はあるが、独自の取材があるのではなくソースは既存の新聞、テレビに他ならない。数少ない有料電子版を持つウォールストリートジャーナルは100万人の契約者がいる。新聞全体では読者の減少がみられるものの、有力紙はインターネットに進出し、新しい読者を開拓している。

 日本のメディアの衰えぬ力
 日本では新聞、放送はじめとするマスメディアは依然として産業として強固な基盤を持ち、社会的な影響力も強い。新聞の発行部数6900万部、1000人あたりの普及631部、購読世帯5000万世帯、宅配率99%(いずれも2007年)という普及データーは世界に類例のないほどの高さである。部数は2000年に比べ200万部(朝刊、夕刊あわせ)減少したものの、宅配率は上昇し94パーセントを超えている。ちなみにアメリカの人口1000人あたりの部数は295、総発行部数は5800万部である。(資料は日本新聞協会)
 日本の場合の放送の経済基盤は強固なものがある。NHK受信料収入は年間5960億円(2007年)、ラジオ、テレビ合わせた民放の広告収入は2兆1905億円である(いずれも2007年)。
NHKと民間放送という放送の二元体制、新聞による民放ネットワークの掌握と再販価格維持制度、宅配制度という仕組みによって新聞産業と民放産業は戦後から半世紀の間に社会的影響力を拡大したのだと私は見る。そしてその力はインターネット時代、デジタル時代の現在も衰えてはいない。
 たとえばテレビの一日の視聴時間はNHKの調査で3時間53分(2007年)である。2000年も3時間53分であり、多少の上下はあるものの、80年代、90年代、2000年代を通してほぼ同じ水準を保っている。インターネットの接触時間は電通の調査によれば2000年8.4分が2007年3.5倍増えたがそれでも30.6分に止まっている。
 この状況について電通は「昨今のネット万能論、テレビ崩壊論はメディア接触データーを冷静に見る限り言い過ぎの感がある」(電通常務松下康氏)としている。
 テレビの視聴者、視聴時間が減らない、社会的影響力も保持し続けている理由の一つに、NHK、民放の番組開発の努力が挙げられる。
 ニュース報道ではNHKの定時ニュースやNHKスペシャルに見られるオーソドックスな客観報道と報道ステーションなど民放に見られるある種の激しさの並立を視聴者は歓迎しているものと見られる。民放の一連のワイドショーの世論効果もさることながら、最近人気のエンタメ型報道番組(たとえば「たけしのTVタックル」、「サンデージャポン」、「太田光の私が総理大臣になったら」など)が従来型の報道番組に代わって世論形成の主役になる傾向もある。報道性、娯楽性に裏情報も加味しているこれらの番組が人々の興味をつなぎとめ、時として小泉劇場、郵政選挙の時のような巨大な社会的波及効果をもたらしてきたといえるだろう。
 市民メディアの一環としてのインターネット新聞も、オーマイニュースやジャンジャンが健闘しているとは言うものの、主流メディアに対抗し、拮抗する存在には育っていない。メディアへの参入を試みたライブドアや楽天は阻まれた。その一方、主流メディア本体は、インターネット進出を試み、着々と地歩を築いている。
 2007年10月、読売、朝日、日経三紙が提携して社説、主要記事読み比べや、新しい共同配信ツールをウエッブに提供する。このサービスについて新聞各社は「ネットメディアにおける新聞社の影響力を高める」(日経杉田亮毅社長)、「インターネットを活用し、ペーパーの新聞を断固維持する」(内山斉読売新聞社長)と意気込んでいる。
 三社のサイトはグーグルと提携しているが、毎日はヤフーや楽天と提携する毎日JP、産経はマイクロソフトと組んだMSN産経ニュースで、それぞれがインターネットを抑えている。

 融合の行方は果たして・・・・
 インターネットへの進出融合では、掛け声は大きいが事実上まだ模索が続いている。
 CBCの特集番組「赤道大紀行」は視聴率11%で好評だった。この番組のための膨大な撮影ビデオを組み入れて月2のインターネット向け放送を動画サイトとタイアップして取り上げたところアクセス数が11万件にも達した。放送がインターネットと連動した成功例である。
 しかし全体として日本の場合はまだ試行錯誤が続いている。レギュラーニュースの衛星やケーブル送信は活発だが、アメリカのようにインターネット上でのニュースの再送信、あるいはインターネット向けのフルバージョンはない。
 ワンセグに一応サイマルの形で流れてはいるが視聴者の数は少ない。iPodのようにプライムタイムのドラマを選んで流すということになっていないため、社会的なインパクトには程遠い。
 インターネット系のテレビ送信はGyo(登録会員数1700万)、第2日テレ(登録会員60万人)、アクトビラ(会員数5万)、ニコニコ動画(有料会員17万4000)などがある。しかしビジネスモデルとしては確立しているとは言い難い。その他フジテレビオンデマンド、TBSオンデマンド、テレ朝BBなどは発信する番組がすくないため、ただやっているだけとみら手も仕方ない現状である。
 これまでインターネット配信から事実上締め出されていたNHKは2008年に入って何階の「アーカイブ再送信」を始めた。NHKが満を持して開始したのオンデマンド、アーカイブには見たい作品が多数あり、今後の展開が注目される。

 新聞とテレビが、ジャーナリズムの基幹的部分を担う決意を持ち、メディア文化、映像文化の分野でもこれまでの蓄積の上に立って、大衆性を持ち、かつ良質な文化を提供する努力を傾倒する必要がある。その上でインターネットへの進出、新しいデジタルモデルの確立定着を図るべきであろう。
posted by sumiitakao at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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