2009年03月04日

アメリカが変わる、日本が変わる     米大統領選オバマ候補圧勝の影響を考える

 アメリカが変わる、日本が変わる
    米大統領選オバマ候補圧勝の影響を考える  隅井孝雄

 以下は2008年12月6日コープイン京都で行われた「アメリカと日本を語る会」での講演内容である。

 オバマ大統領、考え抜いたアメリカ市民
 11月5日未明、バラク・オバマが大統領選で圧勝、同時に行われた上下両院の選挙でも民主党が多数を占めた。オバマに投票したアメリカ国民は7日の集計で53%およそ6452万人、マケインは46%、5678万人、投票率は61%を超えた。投票人口は最終的には1億3400万人に達するとみられている。アメリカでは1968年のニクソン1期目が62パーセントだったのを最後に投票率は低迷を続け、一時は52%台まで下ったこともあった。今回60%を超えたことは30年ぶり、有権者の関心が高かったことを示している。特に注目されるのは事前投票者が2350万人、投票総数の3割にも達したことである。
 11月4日夜のオバマ勝利演説は7857万人が視聴した。これは北京オリンピック開会式視聴者の2倍以上である。オバマやマッケーンの党大会の演説などはいずれも人気番組を上回る視聴者数だった。
 CBSが11月16日、当選後に放送したテレビ番組は視聴者2510万人。これはCBSにとって今期のすべての番組を上回る最高視聴率である。
 政治番組、ワイドショー、コメディー番組などが繰り返し大統領選挙を取り上げ、コマーシャルは、両陣営が集めた選挙資金10億ドルのうち3億ドルが投じられ、候補者の主張が展開された。
 またインターネットでは、若者たちがフェイスブックなどのソーシャル・ネットワークで討論の輪を作り、候補者への支持を訴え、集会が開かれるとかれると相互に誘いあった。
 また各候補への支持を訴える動画投稿サイトも活発で、多くの市民が自らの意見を表明する動画を制作、それを多くの市民が目にした。
 アメリカの選挙制度は、選挙運動の自由の幅が広く、だれでもが自由に討論に参加し、支持候補に献金し、ビラを配り、会合を開き、話あう。
 こうした1年半の議論の中で、迷いに迷い、考え抜いた末、アメリカの市民はついに初の黒人大統領、イラクからの撤退を訴える大統領を生み出したのだといえる。

 世界も変化する
 オバマ大統領の誕生はアメリカに変化をもたらすだけではない。世界に変化をもたらす可能性がある。1990年代ソビエトと東欧の社会主義体制の崩壊以来、アメリカは唯一の超大国として世界に君臨したが、8年前に誕生したブッシュ政権は、市場経済の重視、大企業の優遇、金融と取引の自由化などを推進する一方、9.11テロを口実に、国連を無視し、根拠なくイラクに踏みこみ、軍事力と経済力で世界を支配しようとした。
 オバマ新大統領は軍事力優先、大資本優先の政策を改め、あらためてロシア、イラン、を含む世界各国とも話し合い、国連を重視する姿勢を打ち出している。
 もともと世界経済を混乱に陥れている元凶はマネーゲームに走ったアメリカであることを考えれば、オバマの政策は世界各国にとって受け入れやすいものであることは明らかだ。世界の国々がオバマの誕生を歓迎するのは当然だといえよう。
 この8年間、アメリカは世界から嫌われ、他国の主権を蹂躙し、世界に混乱を引き起こす中心的存在だったが、今回の選挙によって、アメリカの市民は、アメリカが民主主義国家であり、民主主義の原則に立って行動することを世界に示した。これが世界の共感を呼んだのであり、新しい期待の持てる世界秩序の再構築につながるのではないかとみられる。
 
 経済政策転換、核廃絶も視野に
 最大の問題点は経済対策だが、企業の活動を最大限自由にして活力を生もうとしたブッシュ政権の新自由主義経済に対し、オバマ政権は野放しの企業活動に制限を加え、大企業や富裕層の課税を増やす一方、中産階級、貧困世帯の減税、福祉に取り組むことになろう。
 株や投機などのマネーゲームではなく実質経済、つまり物を作り、社会的なインフラを建設することで、資本の循環と雇用の拡大をはかり、経済の回復を実現しようとしている。
 イラクからは期限を設けて段階的に撤退するが、テロに対しては断固として立ち向かう姿勢を放棄せず、アフガニスタンのアメリカ軍を増強するとしている。 環境問題では、石油の中東依存を減らして無公害自動車の増産など代替えエネルギーを大胆に増やすことによって雇用も増大させ、経済を活性化する計画だ。ブッシュ政権が進めていたアラスカの地下資源開発や、原発新規建設には歯止めがかかる。
 国際的には、食糧などの自由化よりも国内生産を重視し、国連との関係を改善、また軍事力依存ではなく、イランなどとも対話を行うことを表明している。
 さらに注目されるのは、アメリカの大統領として初めて核廃絶を目指していることだ。
 オバマとアメリカ民主党は、核抑止政策と決別して、核廃絶を目指すことを初めて打ち出した政権となる。すでにペロシ下院議長は2008年8月、広島を訪れてそうして核についての新政策を表明している。
 唯一の被爆国である日本は、核廃絶の国際世論を作り上げる行動に立ちあがる好機が来たことを認識し、核廃絶に向けての国際的な中心勢力としての自覚を持つことが極めて重要であると思う。

 どうなるイラク、アフガニスタンは増強するが
 問題はイラクからの撤退がスムースにいく保証はないという点である。イラクをイラク政府に任せるというのは正論であるにしても、イラク政府は実力が不足している。イラクが再び混乱に陥ることもありうる。
 イラク復興のためには、国際社会の協調は必要不可欠である。それにはロシアやイラン、中東各国の非軍事的な協力も必要である。日本も非軍事的なイラク支援を強める必要があるだろう。
 続投が決まったゲイツ国防長官はブッシュ政権の閣僚ではあるが、もともとはイラクの現状を再検討するための有識者検討委員会のメンバーで、撤退の方向に向かうことを提言した一人である。またヒラリー・クリントン国務長官はイラク開戦に賛成したとはいえ、撤退を視野に入れて、世界各国とも協調して行動するものとみられる。
 しかしオバマはアフガニスタンへ軍事力を増強し、タリバンやアルカイダ、ビンラディンと戦うことを表明している。イギリス軍はタリバンの掃討が成功することに懐疑的であり、一部ではタリバンとの交渉を唱える専門家もいる。アフガニスタンが泥沼に入り込む危険性があり、オバマは果たして和平への道を開けるかどうか全くわからない。おそらくアフガニスタンに関しては日本の軍事的協力を求めるだろう。彼にとって日本の米軍基地はアフガニスタンへの進攻の拠点として重要視する可能性がある。そのとき日本政府はオバマ政権に追従するのか、対等な立場で提言し、性急な行動をいさめる必要があるかもしれない。
 こうした状況の中、11月下旬インドで大きな規模なテロが発生した。パキスタン国内のテログループによるものとみられている。問題は国際協調でテロにどうやって対抗するのかについて、確たる見通しは立っていないことだ。これはアメリカ、オバマ政権だけの問題ではないだろ。
 日本はこれまでと異なった姿勢でアメリカと向かい合い、オバマ政権への非軍事的協力、協調を図り、世界へ向けて提言を行うべきである。
 
 政治混迷の日本だが、
 ところで日本では現在年金など社会保障が混迷の中にある。非正規雇用、差別雇用は日本の伝統的な技能やノウハウの積み重ねを崩壊させた。食糧自給率の低下も著しい。
 しかし日本の市民はバブル崩壊のあと、マネーゲームの危うさを実感し、着実なものづくりの必要性を実感し、安全安心の地域農業振興の必要性を痛感し、地産地消の重要性を認識し、京都議定書に基づく温暖化対策を着実に実践している。
 また武力に頼らない国際貢献を目指す若者の動きも活発だ。今多くの若者や退職者が、世界の貧困地帯、紛争地帯で地道なボランティア活動を行っていることは国際的な注目を集めている。金融機関も危ういハイリターンのデリバラティブ系の金融商品や投資を遠ざけ、堅実志向が主流だ。そのためアメリカから始まった金融崩壊には本来強い抵抗力を保持しているとみられる。
 しかし政治的、経済的にアメリカ依存の構造に組み込まれていることから、日本もまた景気後退の波にのみこまれそうになっている。
 アメリカ経済とは一線を画し、対等で自主的な経済運営、政治展開が今こそ必要だと私は思う。その前提条件として、不安定で国民の支持を得ていない政府が交代し、民意を反映し、地についた経済政策を持ち、アメリカとの対等平等な関係を打ち立てることを目指す政府を樹立する必要がある。
 国連、IMFなど国際機関と提携し、世界をリードする指導力を発揮すべきではないか、また平和主義の原則で国際紛争解決の努力を行い、中東、アフリカ南米、アジア諸国と提携を進めることが望まれる。特に北東アジア諸国、韓国、中国との関係改善は重要だ。
 最近のBBCの調査によれば日本は日本の持つ潜在的力、個人の社会的行動、文化力(ソフトパワー)、あるいは企業活動、開発地域に対する財政的、人的援助、環境保護努力、NGO活動に対する評価などはドイツに並んで高いという。ある意味で世界のロールモデルとして尊敬を集めるようになっているのだ。

 アメリカニュース誌が褒める日本は?
 最近世界110カ国とともにクラスター爆弾禁止条約に日本政府も賛同した。長年禁止のために活躍してきたNGOに抗しきらなかったためであり、運動の成果である。最大の保持勢力アメリカ、中国、ソ連はス参加だが今後は国際世論の前に使用に歯止めが加わるものと思われる。
 2008年12月1日号のニュース週刊誌Time(アジア版)は「日本の国内政治は混迷しているが、海外では日本は尊敬を集め始めている」という特集記事を掲載した。NPOで国際貢献に活躍する日本人が世界の貧困地帯に数多く見られ、重要な経済援助も続いている。60年前の反省から行動は控えめだが、今や世界の安定に欠かせない存在になっている、エコカーの開発などで強力なグリーンパワーとなり、ニンテンドウ、ポケモンなどの文化力でも、アジア、オセニアで人気を博している、と解説している。
 また2008年12月3日号のNewsweek( 日本語版)では「日本企業の逆襲」という特集を掲載した。「バブル期世界経済を支配した気分に陥っていた日本企業は、その失敗を教訓にした」とする同誌は、日本企業がマネーゲームに加わらず、長期的な視野で経営に当たり、いるため、世界的な金融危機の影響が少なく、円高が海外への新たな進出への追い風になっている、と分析している。特に、食品、飲料、薬品などが不振にあえぐ海外企業に対し、M&Aや提携で手を差し伸べ歓迎されている、たとえば食品関連のキリンやカゴメは食と健康というコンセプトをアジア、オセニア各地域で広げていて注目される、などと記述した。

 野党の第三勢力に期待する
 日本の政治が流動化している。極度の不人気に陥っている自民党政権はいずれ瓦解し、当面民主党に政権が交代することが考えられる。しかし、民主党には自民党に近い勢力もあり、たびたび妥協的な行動に落ちかむこともしばしばだ。
 私は政権交代が国民の生活を守り、日本を混迷から救い出すためには、共産党を中心に、社民党などの野党が議席を拡大し、さらに市民派、無党派勢力も結集し、理論的に、政策的に影響力を持つことが必要だと思う。こうした第三勢力が、野党陣営をリードするような体制を確立し、民主党を引きよせるという力学が必要だ。
 今の政治転換を望む多様な政治勢力の下での野党勢力の提携という方向が目指されるべきである。それ抜きに単なる政権交代であれば同じことの繰り返しとなるだろう。
 二大政党の下でのアメリカは共和党から民主党への政権交代であったが、オバマは党派主義を排し、変化するアメリカを実現するため、あえてすぐれた政治指導者を結集する多数派の新たな結集に力を注いでいることは日本にも大いに参考になりうる。




posted by sumiitakao at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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