2007年02月01日

日本の国際放送を考えるその2、 拉致問題命令放送の怪、危ない言論の自由

 0702 拉致問題命令放送の怪、危ない報道の自由
 2006年11月10日、菅総務大臣はNHKの橋本会長を総務省に呼んで短波によるラジオ国際放送について「拉致問題に特に留意して放送するように」と命令放送の実施を伝えた。突然ともいえる政府の動きに、報道の自由に対する挑戦だとして波紋が広がった。同じ日、日本新聞協会は今回の命令が具体的に放送内容を指示している点は報道、放送の自由を侵す恐れがあり、重大な懸念を表明せざるを得ない。政府は報道機関に対する介入を繰り返さないよう自制を求める」という声明を発表した。まことにもってまっとうな考え方だ。
 放送法には次のような条項がある。総務大臣はこれをタテに、私にはNHKに命令する権限がある、と考えたようだ。
 第33条 総務大臣は、協会に対し、放送区域、放送事項その他の必要な事項を指定して命じることが出来る。
 また第35条には、政府が命じる放送業務は支出する予算の範囲内でなければならないという但し書きもある。
 NHKは受信料で運営されているが、ラジオ国際放送に限っては費用の一部に国費が投入されている。国際放送「ラジオ日本」の2006年度の予算は85億円だがそのうちおよそ四分の一に近い23億円が政府から出る。
 これまで次の年度の予算が確定すると、年度始めに「時事問題」、「国の重要事項」、「国際問題に関する国の見解」を放送することを政府が求めるというのが慣習であった。「放送番組は法律に基づく場合でなければ何人からも干渉され、規律されることはない」(放送第3条)という番組編集の自由を尊重するという不文律が1952年国際放送「ラジオ日本」開始以来54年にわたる伝統であったといえよう。政府が具体的な番組内容を指示、命令したことは一度もなかった。これからはそうはいかないぞと総務大臣がすごんだわけだ。
 なぜ今NHIKに放送内容を命令するなどという荒々しいことがまかり通るのだろうか。
 新しく就任し、放送を監督するという権限を手にした菅義偉総務大臣の独走、思い入れが要因のひとつにあげられるだろう。拉致問題で「特定船舶禁止法」の成立に奔走するなど安部首相にぴったり寄り添う菅氏は、NHKに命令する権限を行使することによって手柄を上げたいという強烈な政治的使命?に突き動かされ、「命令は穏当ではない」という片山虎之助参院幹事長(元総務大臣)などの反対意見を押し切った。このように特定の考え方を持つ人物が政権の中枢にいて、あれこれメディアに独断的に命令するという事態はきわめて危険である。大臣が変わればまた別の放送命令が出ることにもつながりかねない。民間放送に対しても、免許更新の際いくらでも番組に介入し、命令する先例ともなる。安部総理はメディアを押さえ込みたい、折あらば介入したいと言う性癖があるというのが、政治記者たちのほぼ一致した見方だ。
 こうした状況の中で「この際NHKは政府からの交付金を返上すべきではないか」(10月18日朝日社説)声も出ている。また自民党の中からも「放送法を改正して命令放送の項目を削除する必要がある」(塩崎官房長官の発言、11月8日)という意見があるのは、恣意的な「命令」によって放送の自由が侵害される可能性が非常に高いことを裏付ける。
 NHKは放送番組編集の自由をたてに命令をきっぱり返上すべきであった。
 総務省の官僚はこのような独特なキャラクターを持つ大臣の存在を奇貨として、放送メディアをけん制し、あわせて国際的な放送についての新たな政策展開に役立てたいという思惑を持っているものと思われる。
菅総務大臣がまだ総務省副大臣だった2006年3月、「拉致で何か動きを作りたい」と発言、それを受けて新年度のNHK予算が国会を通過したあと、総務省清水英雄政策統括官はNHK橋本会長に拉致問題を重点的に扱うよう口頭で要望した。現在総務省は新しいテレビ国際放送の検討に入っているのだが、これを政府がコントロールしたい、その前哨戦として総務省の電波行政官僚が菅大臣を活用し、命令放送に持ちこんだ、とも言われている。
11月17日に開かれた「映像国際放送検討委員会」の席上では、菅大臣の命令放送に対する批判が噴出した。委員の一人角川ホールディングスの角川歴彦氏は「国際放送は表現の自由が保障されるべきだ、国費を投入したから介入が出来るというのとは違うやり方が必要だ」と発言している。
 二年前の2004年国民保護法(いわゆる有事立法)が成立した際、NHK、民放を指定公共機関として警報、避難指示などの放送を政府の命令に従って義務付ける制度が設けられた。拉致放送の「命令」はそうした有事コントロールの一環とも見ることが出来る。本来自由であるべき報道機関にじわじわと国家による管理の波が押し寄せている。これから新しく生まれようとしているテレビ国際放送もその流れの中に組み込みたいという思惑が透けて見える。しかしそれでは日本の言論不自由を世界に告知するようなものではないだろうか。
 
 プロパガンダ放送は時代錯誤
 NHKのラジオ国際放送「ラジオ日本」は一日65時間の番組を放送している。英語と日本語による全世界共通番組のほか、22の言語による地域限定放送も行っている。その中にはもちろん朝鮮半島に向けての朝鮮語放送もある。NHKが2006年1月から10月にかけて放送した北朝鮮関連の番組はおよそ2500本、そのうち拉致問題は1000本近いと見られる。
 これらの番組がNHKの自由に取材、編集した報道番組ならいいのだが、政府の命令による国策放送だとしたら、韓国や中国などアジアではどう受け取られるだろうか。北朝鮮は別としても、核開発をめぐる六カ国協議の場で拉致に固執する日本の姿勢には批判の声もある。朝鮮を植民地支配した時代の強制連行の問題も反日の底流としてくすぶり続けていることを考えれば、「日本政府のプロパガンダ放送」としてラジオ日本の国際放送は警戒感を持って聞かれる、ということになろう。
 長年NHK国際放送が築き上げてきた日本発のニュースに対する信頼、日本文化への信頼にとってはマイナスである。
 NHKは総務大臣の命令放送について「今後とも自主自律を堅持し、自主的な編集を貫き、正確で公平かつ公正な報道を行う」というコメントを出した。しかしいっぺんのコメントで公正さへの信頼が保たれるのかどうかはなはだ疑問だ。
 受信料の義務化のための放送法改正を待ち望んでいるNHKとしては、総務大臣の「命令放送」という命令にあえて異を唱えることを避けたのではないか。それでは日本の視聴者も納得しないし、国際放送のラジオに耳を傾けるアジアの視聴者も納得しないだろう。
 プロパガンダ放送はいまやヴォイス・オブ・アメリカ、ヴォイス・オブ・コリア(北朝鮮)、ヴォイス・オブ・ロシア、ヴォイス・オブ・イランなど限られた存在になっている。影響力は細り、ほとんど相手にされない存在だといえよう。
「普通の国」では公共放送などが政府から独立して放送を行っている。局名もBBCワールド、ラジオ・コリア・インターナショナル(韓国)など国際理解、国際協調を売り物にしているのが大勢である。放送内容はVOAなど謀略電波系とは際立った違いがある。
このままではNHKのラジオ国際放送は時代錯誤のヴォイス・オブ・ジャパンになりかねない。
 
 
posted by sumiitakao at 14:49| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
隅井さま
>長年NHK国際放送が築き上げてきた日本発のニュースに対する信頼。

そんなものが本当に有るのでしょうか?
どこへ行っても聞こえないR.Japan,誰も聞いていないR.Japanという話しは聞きますが、大きな事件があったとき聞かれるのはBBCやVOAです。これはいつでもどこでも聞こえるからです。

>プロパガンダ放送はいまやヴォイス・オブ・アメリカ、ヴォイス・オブ・コリア(北朝鮮)、ヴォイス・オブ・ロシア、ヴォイス・オブ・イランなど限られた存在になっている。

これは現状を全く把握されていないと思います。
現在一番のプロパガンダ放送はChina Radio Internationalです。
その中国がまた一番の妨害電波発射国でもあります。
チベット、法輪講問題を抱えており、BBC,RFA,VOA,AIR等のチベット語放送や法輪講系のSOHには強烈なジャミングが中国からかけられています。

拉致問題放送の「しおかぜ」を実際にお聞きになったことはありますか?
現在このような特殊放送や地下放送はは数十、いや100を越えるくらいの多さで放送されています。
特に人権問題を抱えるアフリカ向けには数多くの特殊放送局が短波や中波で放送を行っています。

日本もこうした北朝鮮や中国等非人道国家向けにはもっと特殊放送を行うべきだと考えます。
Posted by 海外短波放送ファン at 2007年02月03日 02:07
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