2007年12月09日

メディアの現在と近未来

 メディアの現在と近未来
 これは2007年6月11日全建総連東京土建33回幹部学校、メディア分科会で行った講演の元原稿である。会場は伊東温泉ホテル聚楽。(隅井孝雄)

 A メディアの役割は何か
 近代新聞の創始者ピュリツァーの信条
 新聞は19世紀終わりに登場したニューメディアだった。
新しいメディアの特質は大量印刷、大量配布、庶民のためのマスメディアであり、権力者の伝達メディアではない。
 だから、上意下達ではなく事実を調べて書くことの重要性が強調された。権力の腐敗、不正を断固追及すること、庶民の身近な話題を取り上げること、マチネタ、スターや英雄、を取り上げて人間の営みを赤裸々に伝えることなどが重視された。
 近代新聞の創始者ピュリツァーはセントルイスポストに残した社訓で次のように言っている。
 「やさしく書け、人々の興味をそそることを書け、正確に書け、たくさんの人に読んでもらえ。腐敗、不正に断固立ち向かえ。そうすれば発行部数も増える」。
 「常に貧しきものへの同情を忘れることなく、常に公共の略奪者に反対し、常に厳正なる独立を守り、不正を攻撃するにいささかも恐れるものではない」。
 「だが難しいのは、新聞が奔流のように走り出すのをいかに抑制し、誠実さと正確さを基本とする新聞の本質を保持することである」。

 敗戦を迎えた朝日新聞の宣言
 日本では近代新聞が育ちにくい条件に取り囲まれていた。思想、信条、言論の自由を踏みにじる治安維持法が大きな足かせとなり、次第に権力の御用機関に変質、とりわけ第二次大戦中は政府と軍部の広報宣伝を担うようになった。
 そして敗戦とともに、民主主義に資することを目的とし、国民の側に立つことを宣言した。
敗戦を迎えた朝日新聞は以下のように宣言している。8/23/1945
 「開戦より戦争中を通じ、真実の報道、厳正なる批判の重責を十分に果たし得ず、また、この制約打破に微力、ついに敗戦にいたり、国民をして事態の進展に無知なるまま今日の窮境に陥らしめた罪を天下に謝せんがためである。今後の朝日新聞社は常に国民とともに立ちその声を声とするであろう。いまや狂瀾怒涛の秋、日本民主主義の確立途上来るべき諸々の困難に対し、朝日新聞はあくまで国民の機関たることをここに宣言するものである」
 「国民と共に起たん」と題したこの宣言の精神は、現在の新聞に生きているであろうか。

 虚偽情報が戦争を生んだ、イラク戦争の場合
 イラク戦争でアメリカのメディアもまた、戦争容認の好戦的世論を助長する役割を担った。しかし2004年から2005年にかけてメディアが自らの記事を検証し改めて自省する動きが強まり、それがアメリカ市民のイラク戦争に反対する動きを加速させることになった。その口火を切ったワシントンポストの検証記事は以下のようなものであった。
 ワシントンポストの検証記事。5/30/2004
 「イラク攻撃の直前の2003年3月17日、イラク大量破壊兵器が存在するという情報に疑問がある、という詳細な分析記事が提稿されたにもかかわらず、一面掲載を見送り、17面(国際面)にまわしたのは編集上の誤りであった」。「われわれは政権の動向に注目して記事にしたが、戦争を疑う意見や、政府の主張についての検証が一面の記事に足りなかった。それは私の(編集長)の責任だ」。
 ホワイトハウス密着取材のボブ・ウッドワードも、イラク開戦を決定した根拠となる情報が誤りであったことを3冊の本で明らかにした。
 イラク戦争にいち早く日本政府は賛成し、アメリカに協力することを表明した。その際日本の新聞は読売新聞が積極的賛成、朝日新聞など多くの新聞がやむをえないという論調を示した。しかし北海道新聞や高知新聞などは憲法や国際法上正当化出来ないという明確な意思を紙面で表明した。イラク戦争に賛成し、あるいは容認した日本の新聞は、イラクに大量破壊兵器が存在しないことが明確になったあと、自らの過ちを検証し、襟を糺す努力を行っていない。
 「国連のお墨付きのない戦争は国際法上正当化できない、イラク攻撃は国際社会をなったくさせる明確な大義名分がない」(北海道新聞)、「国連無視の武力行使に肩入れするのは、平和主義を掲げる憲法の精神に反する」(高知新聞)。
 「イラク攻撃はテロの芽は早めに摘んでしまおうという予防戦争だ」(朝日新聞)
 「武力行使の法的根拠はあるとする米英の主張には理がある」(読売新聞)

 憲法を軸にして日本の新聞を色分けすれば
 読売新聞は1994年、2000年、2004年の3回にわたって憲法改正試案を発表した。主たる主張は、権利に偏重しているので義務とのバランスをとる、自衛隊を自衛軍とし、軍の活動を国際的に広げるという2点である。
 産経新聞は9条の改正に論点を絞り、国家像を盛り込んだ自民党憲法草案前文が消えたのは残念と論評した。また日経新聞は、成熟した民主国家にふさわしい憲法を作るべきだとして、自民党新憲法案を評価した。
 これに対して朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は9条と自衛隊海外派遣の問題を中心に現行憲法擁護の論陣を張っている。
 こうした全国紙を発行部数で見ると朝日、毎日合計1200万部、読売、日経、サンケイ合計1500万部でわずかに改憲派が有利に見える。
ところが地方紙では改憲派は北国新聞と静岡新聞の2紙のみ、2000万部のほとんどが憲法9条擁護を主張している。読者数で見ると護憲派が3分の2以上を占め、改憲派は3分の1を下回っているのだといえる。
 読売新聞は依然として9条の改正を主張しているが、世論が9条改正反対に傾きつつある状況に困惑の様子を見せている。そして一方では第二次世界大戦中の軍部、官僚、政治家、新聞の戦争責任を追及する姿勢に転じた。
 日本の国民の平和志向が背後にあるといえるのではないか。
 2007年4月6日の読売新聞世論調査では2005年に63%あった「改正したほうがいい」が2007年4月6日の調査では46%に下がった。「改正しない」は22%から39%に上昇している。9条第一項(戦争放棄)では「変えない」80%、「変える」4%、第二項(戦力、交戦権)では「変えない」54%、「変える」38%であり9条に関する世論は明らかに改憲に組しないといえよう。
「憲法9条の会」の地道な活動が広がったことに加え、イラク戦争の悲惨な実態が改憲反対の世論を強めているのではないか。

 B あるある大辞典のもたらしたもの
 どうして捏造が起きるのか、民放テレビの構造
 今の放送には視聴者からの批判的意見を無視して視聴率優先の番組作りにまい進するというおごりがあるのではないか。孫請け制作に人気番組を丸投げするという構造、東京一点集中で大阪制作が極度に少ないという現状が捏造事件の一因ともなっている。報道情報番組が極端に娯楽化していることにも番組での捏造が起きる原因の一つになっている。
 テレビのあり方、視聴者のあり方
 視聴者、市民の間に蔓延している飽食、極端な健康志向、何か一つ面白いことがあるといっせいに付和雷同し、一点集中の過熱現象がおきやすい社会構造にあることなども、テレビ番組の刺激的傾向を増幅させている。
 正確な情報と、面白さ、親しみやすさを両立させる力量をテレビが持つ必要がある。社会や生活の中の問題点を的確に指摘するアジェンダセッティングの機能をテレビが回復する必要もあるだろう。視聴者の関心を身の回りの小さな世界に閉じ込めず、世界全体の状況を絶えず伝える努力を行うことが放送に望まれる。
 強まる政府の規制に立ち向かえるか
 今回総務相が関西テレビに「警告書」を手渡し、関テレの社長は頭を下げ辞任した。政府がテレビ局の社長を首にしたわけだ。
 国が放送の内容について命令する、「命令放送」が政府によって実施され、従軍慰安婦や沖縄集団自決報道に圧力がかかる。放送法に行政処分を盛り込んで報道だけではなくバラエティー娯楽番組も処分の対象使用とする計画が進められている。サンジャポ街頭インタビューを政府が槍玉にあげ、NHKのニュースが松坂(ボストンレッドソックス)を取り上げすぎると閣僚が批判(4月6日)するなど権力的な介入が目に余るようになってきた。

 C NHKはどこへ行くのか、受信料はどうなるのか
 NHKは公共放送だという意味は
 NHKと民放との二元体制はそれなりに有用に機能していると見られる。ニュース、報道、災害、大衆娯楽の分野で民放にはできないことをNHKが担っている場合もある。NHKも民放も周波数という公共空間使用しているという意味では同じだが、NHKは財源を受信料としているという意味で視聴者、市民とのいっそうの深いつながりを持つ。
 不祥事、
2004年7月紅白のプロデューサーが6000万円以上の制作費を外部制作会社に支払い還流させた不祥事が明らかになった。これに対する海老沢会長ら経営陣の対応に不満が噴出、128万件の不払いが起きた。未納130万、滞納129万あわせると380万件が受信料を支払っていない。それに止まらずに未契約970万件がある。減収に加え未払い、不払いをどうするかが問題になり、NHKの改革が問題になった。
 一連の不祥事での減収440億円となったが最近。やや持ち直している。2007年の収入見込みは6130億円。関連企業、団体を入れると8000億円を超え、NHKはフジ、日テレ、TBSをあわせた規模の巨大メディアである。
 慰安婦
 2007年1月29日東京地裁は慰安婦問題で取材に協力した市民団体に慰謝料を支払うべきだという判決を出した。判決では次のように述べている。
 「制作に携わるもの(プロデューサー)の方針を離れ、(NHKの幹部が)国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、政治家の意図を忖度し、当たり障りないよう、番組を改編した」。
 命令放送
 一方政府はNHK短波ラジオに対し命令放送を発令した。2006年11月である。「国の重要な政策、国際問題についての政府の見解、北朝鮮による拉致問題に留意する」、というのがその内容である。
 2007年3月29日、今度はテレビ国際放送でも始めて拉致報道についての命令書を渡した。
 皆様のNHKになることができるのか。 
 NHKは視聴者の信頼感はかなり高いと見られる。しかし不払い、未納が多いのはなぜか。
 NHKはニュースの客観報道を標榜している。しかし結果的に政府、議会の動きを伝えることに力点がおかれ、批判、追求、風刺はしない。裏側を追わない。自主独立を標榜し、時に政府と真っ向から対決することもあるBBCに比べると生ぬるさが残る。
 報道の強化にプラスして、生活に密着した番組、独創的な番組の開発が望まれる。

 D. 自民党広報戦略
 小泉首相の劇場型演出
 小泉前首相は独特の個性、戦術的勘の鋭さ、アメリカ的広報戦略にならったメディアの活用などで、選挙で大勝し、高い支持率、人気を保って政権を全うした。郵政民営化問題で選挙に踏み切ったとき、夜8時に行われた記者会見のテレビ放送は最高25%、その勢いを借りて選挙のCMは同じ赤カーテンバック、同じブルーのネクタイ、チャコールグレー
の背広で再現することによって国民に首相の決意を鮮明に伝えることに成功した。
 テレビは小泉政治の武器だった。一日二回必ず短時間テレビカメラの目に立つ。サウンドバイトという短い20秒以内のフレーズは繰り返しテレビで流される。わかりやすい。飯島秘書官は新聞や、テレビの本格ニュースよりもワイドショーを重視した。テレビを3時
間以上見る人の支持率は75%にも達した。劇場型政治といわれるゆえんである。
 小泉はメールマガジンを勢い込んで売り込んだが、それほど効果を挙げなかった。途中で戦術を変更し、郵政選挙に際しては、著名なブロガーを集めて知恵を借り、売り込んだ。
結果的に小泉に好意的なブログ情報がインターネットに氾濫することになった。
 対中外交切り札の小泉戦略不発
 幹事長時代に小泉首相についで人気が高かった安部首相の人気が低落している。小泉郵政選挙のとき自民党広報本部長として鮮やかな采配を振るった自民党参議院議員世耕弘成を広報補佐官に起用して広報戦略を立てているが、その多くが不発である。中国との関係改善は広報戦略の目玉と位置づけられていることは就任直後の訪中、温家宝首相の招待などで明らかだ。一時支持率の向上が見られる局面もあり、広報戦略は成功したと見られた。しかし、もともと右翼的信条を持つ安部首相は、訪米前に「慰安婦問題に軍が強制的に関与したという事実はない」と発言、アメリカ議会の反発を誘発した。戦後の見直し、憲法改正という直球で勝負しようとする安部首相の姿勢と、やわらかく世論に訴え支持率を上げたいという小泉流広報戦術はそぐわないものになっている。
 改憲路線、靖国派路線、戦後見直し論を正面から打ち出した安倍政権。しかし古い自民党体質がある以上、小泉を引き継ぐ広報戦術は違和感を伴う。
 メディアの規制強める安倍戦略
 官邸のホームページには直接国民に訴えたいとする首相の意向で総理自らが登場する官邸テレビへのレギュラー出演が開始された。しかしメルマガ160万、ケイタイ15万と不人気を裏書している。何とか巻き返そうと図る政府は内閣の広報推進室にヤフーから出向したプロを入れた。彼はこれまでヤフーのトップページを作ってきたベテランである。果たして人気回復はなるだろうか。
 安部首相はメディアの頭越しに直接国民に働きかけようとする一方、NHKに対して拉致問題の命令法という荒業を使った。NHKの慰安婦問題では、番組内容に介入したことで知られる。加えて受信料問題に絡めてNHKコントロールに意欲を見せているし、民放に対しては関テレの虚偽報道をきっかけに、放送法を改正し、番組に関与する方向に進んでいる。
 メディアの協力を得るという広報手法と、手綱を締めてコントロールしようという二面作戦は今のところ歯車がかみ合っているとはいえない。

 E. 新しいメディアの台頭と情報社会の変化
デジタルメディアの特質、そのすばらしさと危うさ
 2003年ごろからアメリカで新しい情報手段、ブログが急激に発展した。
 経済ニュース、ITニュース、政治のニュースなどの専門ブログが特ダネ連発するようになった。同じころイラク戦争が始まり、バグダッドの青年のブログ、サラムパックスや戦場の兵士によるウォーブログが注目された。
2004年の大統領選ではテレビアンカーがブログの攻勢で誤りを認め、辞任に追い込まれた。既成大メディアの敗北である。
 サーチエンジンによるニュース提供も盛んだ。グーグルは80億のホームページとつながり、ニュースを自動的に新聞などのソースから拾い出し、項目ごとにアレンジし、ランク付けすることで人気を得た。最近ではユーチューブなどの映像サイトも加わった。
 インターネットは新聞やテレビに取って代わるのか
しかしメディアの本流は依然としてテレビ、ラジオ、新聞である。既存メディアがインターネットと連動して、たとえば朝日コム、毎日MSN、テレビのワンセグなどを展開、付加価値を改めて高めつつある時代だ。主導権は依然既成大メディアが握っている。
 9年前にできた検索サイトグーグル。世界中のありとあらゆる情報を検索できることを目指している。グーグルの情報のランキング上位の企業は売り上げも伸びる。ラリー・ページとサーゲイ・グリンという大学生が開発した。クノーラーというプログラムで情報を集め、アルゴリズム(自動計算式)でランク付けする。そのためある特定のニュースを検索すると重要なもの、読まれているもの、引用が多いものが上から順番にまとめて出てくる。これにより人々の情報へのアクセス方法が根本的に変わった。
 しかし情報が国家権力に検閲される危険性も現実に存在している。つまりある特定の用語が含まれているものを排除できることから、中国政府はグーグルに天安門や法輪功のブラックアウトを命じた。グーグルは削除の要求に応じて中国への進出を果たした経緯がある。これをめぐってグーグルはアメリカ議会で集中砲火を浴びた。
なぜフリーペーパーが隆盛なのか
 新聞の部数が激減しているが、それに変わってフリーペーパーが活況を呈している。もともとフリーペーパーはヨーロッパや韓国で波が起きた。日本では2004年以降、カドナビ、ピア、ホットペッパー、ハッピーノート、R25、メトロミニッツ、メトロポリターナなどが若者相手に広がっている。新聞形式855誌、雑誌形式283誌。総発行部数は2億2600万
部の2000億円のマーケットである。
 読者を内容、地域で特定している、つまり目的がはっきりしているのが特徴になっている。直接購買にも結びつく。日常生活や要求に密接に結びついている。人々の手に渡るために、DM形式、人の集まる地下鉄改札口、飲食店、銀行などの目立つところにラックが置いてあるか、こえかけして手渡しする。メトロ系のフリーペーパーは、情報空白時間である通勤、退勤時のビジネスマン,OLを狙った。内容も本格的雑誌と変わらない高級イメージのものが増えた。R25はターゲットを捕まえるためコーヒースタンドを設けた。読ませる記事が売り物だが、ひとつの記事は800字に抑えた。
 労組や団体による機関紙のノウハウと同じノウハウを持ったメディアである。歴史は機関紙のほうが古いが・・。
 フリーペーパーが次第に力を持ち始めていることに注目すべきではないか。


posted by sumiitakao at 08:17| Comment(1) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
押し後残します
Posted by 人妻 at 2008年01月26日 15:42
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