2008年01月13日

大統領選挙まであと一年、アメリカ最新テレビメディア事情

 大統領選挙まであと一年、アメリカ最新テレビメディア事情
 隅井孝雄

 以下は月刊「力の意志」2007年12月号(Vol. 93)に掲載された記事の再録である。

 9.11パージのコメディアン、ビル・マー、五年ぶりの再登場
 今年11月15日、アメリカのABCテレビに政治風刺を得意にするコメディアンビル・マーがインタビュー出演した。
 9.11テロがアメリカを震撼させた2001年、ビル・マーは彼がホストを勤めるABCテレビの深夜番組「ポリティカリー・インコレクト」中で次のように発言をしたことが、騒ぎの火種となった。
 「なんだかんだ言ってもアメリカは卑怯だよ。2000マイル離れたとこからミサイルぶっ放すだけだもの。でもビルに突っ込む飛行機に自ら乗り込むというのは卑怯な行為ではないと思うね」
 スポンサーだったフェデックスとシアーズが広告を引き上げ、系列地方局が次々に放送を打ち切り、そしてABCは放送枠をキャンセルした。大統領報道官は「過激な言動は慎みたい」と名指しで非難、ビル・マーはすべてのテレビ局から出入り禁止になった。
 当時の状況はすさまじいものがあった。9.11が起きたとき、フロリダにいたブッシュ大統領は大統領専用機でネブラスカ空軍基地に避難した。このことについて「ネブラスカの穴に隠れた」、「母親のベッドにもぐりこんだ」と表現したジャーナリストは相次いで解雇された、
 ビル・マーはその後2003年からケーブルテレビHBOで「ビル・マーのリアルタイム」という風刺番組に転じ、最近の人気急上昇で2007年度エミー賞を受賞、カムバックを果たした。エミー賞の前日15日のインタビューでは、「相次ぐ政策の失敗から見てブッシュ大統領は弾劾されるべきだ」と意気軒昂である。

 ジェシカ・リンチが情報操作に風穴開ける
 9.11以降イラク戦争にかけてアメリカのメディアは政府の情報操作の波に翻弄された。好戦的報道を主導し、アンカーが胸に星条旗を着けて出演するメディアも出現した。いわゆるFox現象である。マードックのFoxニュースが、愛国主義を鼓吹し、視聴率を大きく伸ばしたのだ。
だがアメリカメディアの変化は2003年から徐々に始まり、その流れは2006年の中間選挙で決定的になったと私は見る。
 メディアがイラク戦争をめぐる政府の情報操作を打ち破った最初の例は、女性兵士、ジェシカ・リンチ上等兵にまつわるストーリーだった。
ジェシカ・リンチは2003年3月23日戦闘中に捕虜になり4月2日特殊部隊に救出された。救出の模様は特殊部隊広報班の暗視カメラで撮影され、大々的に放送された。
 しかしイギリスBBCが、当時イラク兵は病院にはいなかった、イラクの病院医師は手厚い治療を施した、特殊部隊カメラを引き連れてハリウッド映画のように戦闘態勢で踏み込んできた、などの現地取材をレポートした。さらにワシントンポストがジェシカ上等兵はアメリカ軍の車両どうしの衝突で負傷したもので、イラク兵と交戦していないと記事を書いた。「勇敢に戦って捕虜になった」という軍の発表を元にした自社の記事を訂正したのだ。
 テレビも一度は英雄美談として放送したが、後にリンチ上等兵とのインタビューで「私は怖くて横たわっていた、銃は壊れていた、イラクの医師は親切だった、軍がなぜカメラを持ち込んだのかわからない」というコメントを放送した。こうしてアメリカ政府と軍の情報操作が一挙に明るみに出ることになった。
 同じ頃新聞も軌道修正を始めた。イラク戦争開戦時の報道を検証、「政権の動向について記事にし、戦争を疑う意見や、政府の主張を検証する記事が足りなかった」(ワシントンポスト8/12/04)、「イラクの核兵器開発について、政府の情報操作にのせられた」(ニューヨークタイムス10/3/04)と言う記事を掲載して流れを変えたのだった。

 マイケル・J・フォックス、中間選挙の決定打となる
世論が大きく振り子を左に振ったのは2006年11月の中間選挙であった。
ここで図らずも主役を演じた男、それは俳優マイケル・J・フォックスであった。映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」、テレビシリーズ「スピン・シティー」などで知られる彼は、パーキンソン病で2000年に引退、社会活動に専念していた。そして難病克服の一環として、胚性幹細胞の研究推進を主張していた。
 イラク帰還兵でイラクからの撤退を主張する民主党のダックワースや、幹細胞研究に賛成するマカスカル候補を支持して彼は選挙終盤テレビコマーシャルに出演した。このコマーシャルについて、保守派のラジオ司会者ラッシュ・リンボウが「体が揺れているのは演技だ」と噛み付いたことが全米の話題となった。胚性肝細胞の問題はイラク撤退と並んだ選挙の大きな争点だった。
 結果としてパーキンソン患者であるマイケル・J・フォックスを誹謗したことに、リンボウが謝罪することとなった。自らまいた種とはいえメディアに君臨して権勢を振るっていた右派のラジオ司会者の敗退である。

 インターネットで出馬表明、テレビは古い?
 2008年の大統領選挙に向けて、民主、共和両陣営はそれぞれの予備選を展開中である。9月の段階ですでに1億ドル集めたと伝えられるヒラリー・クリントン議員を筆頭に、民主、共和両党の候補たちが集める選挙資金は史上空前10億ドルを突破するものと見られ、その多くが激戦区のテレビCMに投入される。
 だが選挙キャンペーンの舞台は確実にテレビからインターネットに向かい、YouTubeが猛威を振るい始めた。
投票まで1年10ヶ月も先立つ2007年1月20日、ヒラリー・クリントンがインターネット上で大統領選立候補を表明した。早くから出馬が伝えられていたため、意表を衝いて、週末の土曜日にインターネット発表という戦術に出たものと見られる。このため日曜に編成されている政治討論番組の話題を独占することとなった。そして22日月曜日は一日中メディア出演、そして夕方にはインターネットによる有権者と直接対話を行った。これをマスメディアが報道、クリントン現象を起こすことに成功したのである。
 共和党候補のジョン・マッケーン候補はCBSテレビのデイヴィッド・レターマンショー、ハリウッドのスターフレッド・トンプソン候補はNBCテレビのジェイ・レノショーで出馬宣言した。一昔前であれば、コメディアンが司会するバラエティー番組での出馬表明は新鮮さがあったが、いまや政治家の常套手段と見られ、ブログやYouTubeの話題性には及ばない。
 バラク・オバマ候補はブログ上のヒーローである。「キャンペーンソング」を自作し、YouTubeに投稿したオバマガール(ミス・エッティンガー)が歌う「オバマに一目ぼれ」(I got a crash on Obama)はヒットチャート入りした。素人の自作というが、投稿したグループは広告業界のプロ。真相は豊富なオバマ資金を使った、巧妙な選挙キャンペーンの一環ということだ。
 
 テレビ討論もYouTubeへ鞍替え?
 ところでCNNは2007年7月23日YouTubeと組んで民主党大統領候補の討論会を中継した。動画投稿を募り、それを候補者に直接ぶつけようというものだ。放送開始までにおよそ3000本の動画が投稿され、その中からセレクトされた質問が動画つきで映し出された。
 市民が直接質問できるYouTubeディベートを高く評価する意見がある一方、CNNが質問を選んだたことは批判の対象になった。投稿をYouTube上で人気投票にかけて選び出すことはいともたやすい。CNNなど既存メディアはいまだにYouTubeへの理解が不十分だといわざるを得ない。CNNとYouTubeは9月17日に共和党候補による同じスタイルのYouTube討論会も行った。
 今までのどの大統領選より早く、来年3月を待たずに民主、共和両党の候補が決まると見られる。それぞれ一本化されたあと投票日までの8ヶ月、政党単位のどのようなメディアキャンペーンが展開されるのか、果たしてYouTube現象は続くのか注目される。

隅井孝雄 国際メディアアナリスト、元京都学園大学教授(マスメディア論)

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posted by sumiitakao at 15:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
押し後残します
Posted by 人妻 at 2008年01月26日 15:42
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