2008年01月16日

メディアと政治権力、その現場、大連立舞台裏を見る

 メディアと政治権力、その現場、大連立舞台裏を見る
 隅井孝雄 元京都学園大学教授、元日本テレビインターナショナル社長

 これは月刊誌「ネットワーク京都」(第228号)2008年1月号に掲載された。
 
11月16日の朝日新聞朝刊が民主党小沢代表とのインタビューを掲載した。そこには要旨こんなやり取りが記されていた。
 記者、渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長が会談を持ちかけたのは、安倍政権のころか。
 小沢、8月末か9月初めのころだったと思う。断ってしばらく何もなかったが、首相の代理人(森元首相)が会ってくれというから会った。(そこで)「内々に会うのはいやだ。総理のお話なら断ることはしない」と答えた。
 自民党と民主党の「大連立」を話し合った福田小沢会談の背後に読売新聞の渡辺恒雄氏がいたことがほかならぬ当事者の口から明らかにされたわけである。

 日本テレビの最上階役員室での謀議
 ここで少しナベツネこと渡辺恒雄氏の動きをまとめてみよう。
 彼は読売グループを束ねる総帥の地位にいるだけではない。自ら読売新聞の主筆を自認し、読売新聞の社論、紙面編集の権限を持っている。社説も時に応じて執筆する。
 彼は参院選で自民党が敗北した後8月16日自ら筆を執って、自民と民社に連立を勧める社説を書いた。そして8月のさなかにもかかわらず民主党への働きかけに動いたのだった。記録によればホテルオークラの料亭山里に鳩山を呼び出し(8月21日)、そのあと小沢と会食をしている(8月下旬)。連立の話がその席で出たことは小沢自身が認めている。山里は渡辺恒雄が定期的に主催する勉強会が開かれている場所である。しかし当時は選挙に勝って意気上る民主党は歯牙にもかけなかったようだ。
 9月12日安倍首相が突如辞任し政界は激動の渦に巻き込まれた。辞任会見で安倍首相は「民主党小沢党首に会見を申し入れたが、断られた」ことを辞任の理由の一つとしてあげている。人々は唐突な首脳会談申し入れをいぶかったが、ここにも私は渡辺恒雄氏の影を見る。
 安倍辞任の翌日8月13日、汐留にある日本テレビ社屋の最上階の役員室で会議が開かれた。出席は読売グループの総帥渡辺恒雄氏、その盟友である日本テレビグループ議長の氏家斉一郎氏、自民党側はパリから急遽帰国した森喜朗元首相のほか青木幹雄前参院議員会長、山崎拓元副総裁である。これについては政治評論家の歳川隆雄氏が雑誌「SAPIO」(11月14日号)で「福田政権誕生は事実上ここでの五者会談で決まった」とレポートしている。
 福田政権が船出し、テロ特別措置法の期限切れが目前に迫った10月中旬ころ、渡辺氏の差し金で森元首相が小沢民主党代表とひそかに会った。そして10月25日赤坂の料亭「福田家」で中曽根元首相を囲んで読売渡辺氏、日本テレビ氏家氏の会談が行われた。ここには自民党与謝野幹事長も同席したとも伝えられる。党首会談のお膳立てがここで整えられたようだ。大連立論をかねてから唱えていた中曽根氏が「大賛成だがだ、実際にあるうるか」と発言、それに対して「ある」と渡辺氏が断言したという。
 首脳会談での合意を民社党が拒否し、小沢代表が辞意を表明した日の夜、テレビカメラの前で中曾元首相は「大連立では意見が一致している。渡辺さんは行動派だから、かなり早い時期(7月頃か?)から福田さんや小沢さんに個々に会って打診したり勧めたりしたと思う」と舞台裏を語った。

 規制緩和、改革路線も止めたい
 首脳会談をお膳立てした渡辺、中曽根両氏は首脳会談の議題設定まで踏み込んだようだ。11月12日のテレビ朝日では、大連立だけではなく、自衛隊の海外派兵の新法、消費税増税なども視野に入れたと伝えた。大連立を進めようとする渡辺氏、中曽根氏はともに海外派兵論者であり、また増税による財政再建論者である。特に渡辺氏は財政制度審議会の民間メンバーとして消費税など増税が出来なければ日本は滅びるとの論陣を張っていた。小泉改革、規制緩和路線の流れを一挙に断ち切るチャンスと見たのではないだろうか。
 ともあれ一連の騒動は11月4日の読売新聞社説「それでも大連立を目指すべきだ」で終幕となった。そして小沢氏は再び民主党代表に戻り、国会はテロ特措法、年金などでの与野党対決の構造に戻った。
 これまでにも政治家の番記者を務める個々の新聞記者が政治にコミットする例はしばしば見聞きされた。しかし今回の場合は特定のメディアグループが組織として、政治を特定の方向へ動かそうとしたという意味で、大きな問題をはらむ。そしてこうしたフィクサー的行動をとり、社説までも使って、自ら思い描く方向に政治の舵を切ろうした人物が新聞社の会長であったことは市民のメディアに対する不信感をいっそう増大させたといえるだろう。
 私自身長年日本テレビで仕事をしてきた。日本テレビの社長であった氏家斉一郎氏が政治の節目、節目で読売渡辺恒雄氏とともに政治家との会談を重ねていたことは事実である。しかし少なくとも日本テレビの場合、経営のトップが報道内容に関与することはなかった。経営と編集の分離が曲がりなりにも存在しているというのが実感であった。しかし読売の渡辺恒雄氏の場合は自ら主筆として社論を統括し、社説の執筆にもあたる。読売、日本テレビグループでも温度の違いはあるが、渡辺氏は読売ぐるみで政治にコミットするという意味で危険度が高い。
 11月18日に行われた大阪市長選で民主党の候補である平松邦夫氏が、自民党、公明党が押した現職の関淳一氏を破った。朝日新聞の出口調査によると無党派の半数近く49%が平松氏に投票したばかりではなく、自民党支持者の四分の一以上27%が平松氏に流れた。無党派で関氏に投票したのは18.4%にとどまる。
 この結果で見る限り、民意は自公政権から離れたことを示している。自民党政権の延命を意味するいわゆる「大連立」は民意とはかけ離れたものであることをくっきりと示しているのではないか。そこに渡辺恒雄氏らの時代錯誤がある。

 憲法改正を主導する読売、果たして改憲は多数派か
 美しい国、憲法改正をスローガンにしていた安倍内閣が崩壊して、憲法改正問題は切迫感が遠のいたように一見見える。しかし中曽根元首相や渡辺読売グループ会長が主導した大連合の背景には自衛隊の「国際貢献」(実は海外派兵の日常化)を突破口に憲法9条改正への道筋をつけようという思惑もある。
 読売新聞は1994年、2000年、2004年の三回にわたって憲法改正試案を発表した。憲法九条を改正し自衛隊を自衛軍とし、自衛隊の海外派兵を容認するという点で自民党の新憲法草案と軌を一つにする。
 産経新聞は以前から憲法改正を主張してきただけではなく、自民党憲法草案が美しい国などのいわゆる「建国路線」を棚上げしたことをなじった。日本経済新聞もまた自民党草案の発表後、「民主国家にふさわしい憲法を新しく作るべきだ」との論陣を張り、自民党の新憲法草案に賛意を表明した。
発行部数で見ると、読売、サンケイ、日経三紙の合計は1500万部、朝日と毎日の合計は1200万部、55.6対44.4で改憲派が多数に見える。
 しかし日本には合計2000万部の地方紙が存在し、それぞれの地域では圧倒的な影響力を持っている。たとえば京都府の場合、50%近いシェアーを持っている京都新聞(43万部)は憲法改正に反対の論調を打ち出しているから朝日(20万部)、毎日(10万部)をあわせて73万部(京都府内朝刊)、それに対して読売(19万部)、サンケイ(3万部)、日経(6万部)の合計は28万部(京都府内朝刊)に過ぎない。京都で見る限り改正反対62%、賛成38%という比率となる。(京都府内朝刊発行部数はいずれも京都新聞広告局2007年4月調べ)

 見逃せぬ地方紙の健闘
 関東学院大学の丸山重威教授によると地方紙の中で改憲派と見られる論調を持っているのは北国新聞(金沢)と静岡新聞の二紙のみだという。2000万部の地方紙のほとんどが憲法改正に反対の意見を持っていることを考えると、日本の世論の3分の2が現行憲法を守るべきだと見ているといえるだろう。
 ほかならぬ読売新聞の世論調査で見ると2005年に63%あった「憲法を改正したほうがよい」が2007年4月の調査では46%に下がった。「改正しない」は22%から39%に上昇している。同じ2007年4月の調査によると「九条第一項(戦争放棄)では「変えない」80%、「変える」4%、第二項(戦力保持、交戦権)では「変えない」54%、「変える」38%であった。
 こうした状況を懸念し読売新聞は「2004年をピークに改正する意見が下落を続けているのが気になる、単純に憲法を変えるのだと叫んでもでも、憲法改正は遠のく可能性が高い」という論評を掲載している。
イラク戦争を経験して軍事力では紛争は解決しないということが誰の目にも明らかになった。このまま自民党によるアメリカ追従の政策が続けば日本が海外で戦争に巻きこまれる危険性が高まったことを日本の市民が敏感に感じ取っている。
知識人による「憲法九条の会」が草の根に広がりいまや地方の組織が6734(九条の会ニュース97号、2007年10月23日による)インターネット上の九条の会314、登録されている九条ブログ73にまでなっているというある種のうねりが、憲法改正反対を多数派に押し上げているに違いない。
 
 NHKに強まる政府の風圧
 ここ数年メディアに対する不信感は放送の分野でも増大している。
 NHKでは2004年以降プロデューサーなどの制作費の不正事件が相次いだことに加え、自民党幹事長代理だった安倍晋三氏が従軍慰安婦の番組に介入したとのプロデューサーの内部告発を朝日新聞が報道、視聴者の不信感が一挙に爆発した。そのため受信料を払いたくないという人が一挙に増え2005年11月には128万件にも達した。批判にさらされた海老沢会長が辞任、そのあと会長となった橋本元一回答の元再生を図っている。2006年の時点で400万件近くあった不払い、未納、滞納は50万件減って348万になった。視聴者第一にという経営方針、編成方針に加え、民事手続きによる督促が効果を挙げてためであると見られる。
 しかし、NHKニュースが自民党寄りだという批判は依然として続いている。
 NHKの一連の不祥事の結果は政府と自民党にとっては受信料問題を人質にNHKを抱え込む好機と考えたようだ。政府はNHKに対して経営の効率化、人員削減、チャンネルの削減、子会社、関連会社の統合などを求めている。端的に言ってこわもてに出てきているのは「言うことを聞くNHKであれば経営改革で多少の目こぼしをする」という前提があるからに他ならない。
 2006年11月小泉内閣の菅総務大臣はNHK橋本会長を呼び短波によるラジオ国際放送について「拉致問題に特に留意して放送をするように」との「命令放送」の実施を伝えた。さらに2007年3月には同じような「命令放送」をNHKテレビ国際放送についても発令した。国際放送の予算の一部に国家予算が支出されていることが根拠になっているが、この「命令」は言外にNHKの一般放送についても国の重要な政策に沿った放送を行うことを要望しているものと受け取られている。NHK橋本会長は「自主的に放送している」と答え、政府の要望をやんわりとした形で受け流したが、NHKの番組内容に対する干渉の糸口になりかねないことが懸念される。
 民放の「あるある大事典」納豆捏造事件に際しては、菅総務大臣は関西テレ日に警告書を手渡した。警告書を受け取った関西テレビ社長はその後辞任したが、見方によっては政府が放送局の社長を首にできるという前例をつくったということも出来よう。
政府は現在放送法の改正案を国会に提出している。その中では「事実と違う放送をした場合政府に報告し、間違いを正さなければならない」という条項が盛り込まれようとしている。何が正しく何が間違っているかを政府が判断するということは、言論、表現の自由に取って大きな問題をはらむ。国の介入がますます強まることが予想されるため、強い反対の動きが起きており、放送法改正案は今のところ審議が行われないままたなざらしになっている。

 改選間近NHK会長、公正な人事は期待できるか
 NHKはそうはいかない。毎年の予算審議は国会で審議されるため、結局は政府とその監督官庁の長である総務大臣が、運営、人事、番組に意見を述べる権限を持っている。国会の予算審議が始まる前のNHKは政府与党の要人に日参して、事業活動案への了解を求めることが長年の通例となっている。そうした構造の中で「従軍慰安婦番組」の改変も起きた。2007年1月29日従軍慰安婦番組に関連した訴訟で東京地裁は取材に協力した市民団体に慰謝料を払うようにとの判決を出し、次のように述べた「(NHK)の幹部が国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、政治家の意図を忖度し、当たり障りのないように、番組を改変した」。
 不祥事で途中辞任した海老沢会長のあとを継いだNHK橋本会長の任期は2008年1月末までである。会長は経営委員会が任命するのだが、その経営委員の任命は総理大臣である。
 現在の経営委員長は安倍元首相に近いとされる古森重隆氏(富士フィルムホールディングス社長)である。このような状況の下での会長選出が迫っているため日本ジャーナリスト会議などが「世論形成と放送文化に重要な役割を持つNHK会長の選出をガラス張りで公正に行うこと、NHK経営委員会は会長選出に当たって候補者を公募すべきである」という要望書を出している。
 NHKは視聴者の一人ひとりが拠出する受信料によって運営されている。会長の選出は受信者の意見を反映する民主的な方法で行われる必要があるだろう。
日本の新聞発行部数 2006年10月
新聞全国総発行部数 5231万部、1部あたり2.43人、1世帯あたり1.02部
全国紙発行部数 地方紙発行総部数 うちブロック紙発行部数
2640万部 2590万部 480万部

大手、ブロック紙 発行部数 地方紙 発行部数
朝日新聞 8,270,000 河北新報 508,000
毎日新聞 3,930,000 東京新聞 634,000
読売新聞★ 10,070,000 新潟日報 500,000
産経新聞★ 2,100,000 静岡新聞★ 734,000
日経新聞★ 3,030,000 京都新聞 502,000
北海道新聞 1,233,000 神戸新聞 550,000
中日新聞 2,718,000 中国新聞 735,000
西日本新聞 843,000 (北国新聞)★ 642,000
★印は9条改憲論調

憲法についての最近の世論調査から
憲法改正に賛成 憲法改正に反対
読売新聞2007年 46.2% 39.1%
読売新聞2004年 65.0% 22.7%
憲法9条改正に賛成 憲法9条改正に反対
朝日新聞 33.0% 49.0%
読売新聞 35.7% 55.8%
共同通信 26.0% 44.5%
自衛隊を軍隊にする 今のままでよい
朝日新聞 18% 70%




posted by sumiitakao at 15:35| Comment(0) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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負けても勝ち組w
Excerpt: てぃん★てぃんシゴきまくってもらって5諭吉くれるってどんだけww パチ屋行く前の軍資金集めの定番になってしまったw
Weblog: ドンパッチ
Tracked: 2008-02-16 16:18
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